現実
 
 
高く編んだはりがねの塔に暮らして
光も雨も貫いていった
私の中の生きつづけるどこかが恨んでいる
現実から覚めたいと
いつまでも願っている
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1日のすきま
 
 
夕日が髪を温める
目を伏せたら
ゆっくり壁にもたれて
明日も、夜さえ来なくていい
何を恨むんだろう
 
望んでもないのに
動きたくないから
ここにいたい
赤い光がのびて
街にからんで、焦がして
ただの夢のように
少しの跡も残さず消える
 
何もないのに何かが痛い
胸を押さえる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
音がする
 
 
たわむ五線譜
落ちる音符
雨滴
まだ水気が香っている青空
孤独な鳥が一羽
斜めに切り開く
濡れそぼったコンクリートに
影は届かない
 
寝台に押しつけた耳に
下水の音が這い上がり
視界を浸す
景色のない世界を
白く覆って
透けていく
 
混じりこむ声は
今にも強引に足を
腕を、首をつかむ声か
いもしない神の声か
ああ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
箱の中
 
 
いつもお菓子を入れる箱の中に
なめくじをたくさん入れる
今日はお菓子を入れる気分ではない
 
だれか愛したら、こんなこと
なくなるだろうか
こんな日はなくなって
共に歩けたろうか
いちばん大切なものになんか
ならなくても
 
助けてほしかった
秘密と引き換えてもいい
思いながら
指の皮をめくるのを止められない
 
箱いっぱい塩をすりきって、ふたをする
明日には、箱の中はお菓子よりも甘くて臭うだろう
だけど待てど罰は降らない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
明日こそ負けてしまう、と毎日思っていた
肩に焦げつく光は、熱を離さない
 
爪先からこぼれた影の
執拗に訴える眼差しに気づいたのは
今日こそ負ける、と思った日
 
冷たかった酸素が、嫌気をふくむぬるい息になる
負けたい、いっそ願えば
また影がのびてしまう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
廃墟
 
 
眩暈が崩す世界で
繰り返し星と星がすれ違うけど
二つは一つにまとまらずに過ぎていく
光の銛で雲を引っかき
裂傷に残る光が点滅する
 
草いきれに酔いながら
瓦礫を這い上がり風をすするように吸う
眩しい暗闇
鮮血で線を正しても
眩暈は解けない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
手遅れ
 
 
君の言いつけを守っていたら良かった。
 
切り絵の残骸になった空の内側で
どこへも出られず薄暗く囲まれて
病んで黒ずむ一方だ。
 
地平線と連れだって来た太陽おじさんは
今はひとりで来るから怖いおじさんだ。
雲をピシャリと叱り僕達を怒鳴り
帰りもひとり。
もう笑っていない。
 
従順に戻るには遅すぎる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
吸血鬼
 
 
だれに愛されるでしょうか
だれが愛すでしょうか
そんなことは考えるまでもない
 
さあ歌いましょう
吸血鬼も歌います
吸血鬼にも歌わせてあげてください
 
私を愛すだろうか
私を一番に愛すだろうか
笑い話だから気にしなくていい
 
あの見えない向こうへ行きましょう
 
いとしく弧を歪む地表は ぬくもりの積みかさね
そこかしこに刻まれた 太陽の愛のことば
かけていく足の裏は「熱すぎる」と泣いて
泣いて泣いてかぶれて
 
愛されるでしょうか
愛されるでしょうか
愛されるでしょうか
 
雲が 太陽に刺されてくぼんでいます
 
さあ歌いましょう
吸血鬼も歌います
吸血鬼にも歌わせてあげてください
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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腕を振り下ろしたら
骨の折れる音がした
 
一つ終わった錯覚
一瞬の晴れ間
すべてそのまま
曲がった腕に雨が跳ねている
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なくなる夜
 
 
今日と明日の区別がつかないのが
きっと苦しい
 
もうじき夜が裂ければ白い朝靄があふれる
闇の破片も月も流され
どこかへなくなってしまう
眠れないのに夜は減って
いつのまにか今日は明日になって
やる事を残しながら明日になって
戻れなくなる
苦しさが増す
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
川べり
 
 
昔は死ぬなら寒い日が良いと思っていた
今はこんな寒い日には死にたくないって
そう思ってしょうがない
 
ひたひたと音を立てる川面の向こう
きらりと鋭い三日月がある
どこかに逃げる足があるなら
切り落とすだろう
それでもひとつ許された抜け道を
きっと誰もが分かっている
私は分かっている
 
川の手拍子が
途切れ途切れに祝福して
怖かった
黒くつぶれた空気に
たまに見えた気がしてしまうのは
誰かの手の白さ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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実はお腹に小人がいるから
ご飯をいっぱい食べるのも
頭が悪いのも
運動が出来ないのも
そのせい
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
強奪
 
 
言葉を失いました。
あさはかな己を笑います。
何か言っても何と言っているか忘れます。
日付は辱められています。
虫の嫌がらせに決まっています。
おとといや明後日まで並べ替えてしまったのです。
友人の僕からの書き置きも読めません。
なすすべを知らず呆けています。
丸と三角と四角は違うものだけど同じものです。
 
この興奮を伝える言葉もありません。
もうすべてが枯れ葉みたいに乾燥して危ういです。
今しもパリッと悲鳴をあげて破れます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
万華鏡の目
 
 
万華鏡病になった
ひとつの失敗が悪くなった目の中で
すべてになる
 
何も見えないのと 別に見えるのなら
どちらの方が怖いだろう
 
ひとつの風景が砕けて
破片が混ざりあい別の風景になる
別の風景は
また別の風景をつくりながら
また別の風景になりかわる
花の咲くような波紋の連続
触れたぬるさに ぞうっとした
 
もつれる足で 失敗をたどり
やっと伸ばす手が 知るより早く壊してしまう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
星のあめ
 
 
何もないと思うのは
嘘かもしれないけど
 
背骨があえぐ軋みも 嘘かもしれないし
寒さも 嘘かもしれないんだけど
 
星がすべてここへ降ってくる夢を見て
起きたんだ